・・・正直な満蔵は姉にどなられて、いつものように帯締めるまもなく半裸で雨戸を繰るのであろう。「おっかさんお早うございます。思いのほかな天気になりました」 満蔵の声だ。「満蔵、今日は朝のうちに籾を干すんだからな、すぐ庭を掃いてくれろ」・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・ 私は開け放った窓のなかで半裸体の身体を晒しながら、そうした内湾のように賑やかな溪の空を眺めている。すると彼らがやって来るのである。彼らのやって来るのは私の部屋の天井からである。日蔭ではよぼよぼとしている彼らは日なたのなかへ下りて来るや・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・ 第二房でも眼をさまし、鈍い光に照らされ半裸体の男でつまっている狭い檻の内部がざわつき出した。「何だ、メソメソしてやがって! のしちゃえ、のしちゃエ!」 看守は騒ぎをよそに黒い外套を頭からすっぽり引きかぶって、テーブルの上に突っ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ うちの連中は暑さで閉口しながら元気で、太郎はこの頃小さい黒ん坊のように半裸で暮して居ります。大きい青桐の下に大タライを出してそこへゴムの魚や軍艦を浮べ、さかんに活躍です。スエ子の糖尿がいい塩梅にこの頃は少しましです。でもずっと注射して・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・家の者は皆一度に起き上った。半裸体の人々が窓ぎわへ飛んで行って、訊き合っている。『火事かしら?……警鐘のようだが……』 よそでも騒いでいるらしい。扉をどたんばたんと鳴らす音が聞えた。誰かが屋敷内で馬の手綱をひいて駈けて行く。老婆が、・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫