・・・息子は体が弱くて、父である青鬼先生に佐分利流の稽古をつけられて度々卒倒するので、これは武術より学問へ進む方がよかろうということになって、二十歳前後には安井息軒についていたらしい。やがて洋学に志を立て、佐久間象山の弟子になって、西洋砲術の免許・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
・・・狂喜のあまり彼は卒倒した。 ニージュニイに帰った。ゴーリキイは月二ルーブリのひどい離家をかりて、オリガとその小さい花のような娘と三人で生活しはじめた。 コロレンコとの友誼が深められた理解の上によみがえった。「チェルカッシュ」はこの時・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・声に打れて卒倒したい。恐怖からでもよい、号泣したい。そして、すっかり忘れたい。彼と云う者も、自分というものも!」〔一九二四年九月〕 宮本百合子 「文字のある紙片」
・・・そのことを知った時、この頑丈な若者は狂喜のあまり生れて初めて卒倒した。 ゴーリキイは真直ぐ、ニージュニへ帰った。そして月二留の家賃で或る家のひどい離家、というより棄てられた浴室を借り、オリガとその娘との三人暮しがはじめられた。 それ・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・ 彼は又、薬師経を枕元で読ませて居た時、軍くびら大将とよみあげたのを、我を縊ると読みあげたと勘違いして卒倒した男だ。 笑い出すとだらしなくはめを脱した事。横車を押し意だけ高に何かを罵って居た時、才覚のある者が、ふみばさみに文をはさん・・・ 宮本百合子 「余録(一九二四年より)」
・・・一緒に働き、遊び、男の子たちは、女の子がヒステリーを起して卒倒するのから、学生大会で、雄弁をふるうのまで見てる。男の子が、どんなに確りしてると同時に妙な奴が時々あるか、女の学生だって知ってる。 工場で一緒に働いていたものだって、ここには・・・ 宮本百合子 「ワーニカとターニャ」
・・・毎年卒業式の時、側で見ていますが、お時計を頂戴しに出て来る優等生は、大抵秀麿さんのような顔をしていて、卒倒でもしなければ好いと思う位です。も少しで神経衰弱になると云うところで、ならずに済んでいるのです。卒業さえしてしまえば直ります。」 ・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫