・・・その規則をあてはめられる人間の内面生活は自然に一つの規則を布衍している事は前申し上げた説明ですでに明かな事実なのだから、その内面生活と根本義において牴触しない規則を抽象して標榜しなくては長持がしない。いたずらに外部から観察して綺麗に纏め上げ・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・かく完全な模型を標榜して、それに達し得る念力をもって修養の功を積むべく余儀なくされたのが昔の徳育であります。もう少し細かく申すはずですが、略してまずそのくらいにして次に移ります。 さてこういう風の倫理観や徳育がどんな影響を個人に与えどん・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・現代の文学者をもって探偵に比するのははなはだ失礼でありますが、ただ真の一字を標榜して、その他の理想はどうなっても構わないと云う意味な作物を公然発表して得意になるならば、その作家は個人としては、いざ知らず、作家として陥欠のある人間でなければな・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・その名も主意も詳しい事は忘れてしまいましたが、何しろそれは国家主義を標榜したやかましい会でした。もちろん悪い会でも何でもありません。当時の校長の木下広次さんなどは大分肩を入れていた様子でした。その会員はみんな胸にめだるを下げていました。私は・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ただ上人が在世の時自ら愚禿と称しこの二字に重きを置かれたという話から、余の知る所を以て推すと、愚禿の二字は能く上人の為人を表すと共に、真宗の教義を標榜し、兼て宗教その者の本質を示すものではなかろうか。人間には智者もあり、愚者もあり、徳者もあ・・・ 西田幾多郎 「愚禿親鸞」
・・・どういう政党に投票してよいか分別もつかないで、資本主義の搾取というものに疑問をもたない人間として育ってゆくとしたら日本の民主化というようなことは実現しないどころか、政府の無力のため或は無力であることを標榜するより深刻な打算によって、人民大衆・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・少くとも戦争の間日本の知性は、それが窮極には彼自身の破滅を意味したことだったのに、個性という近代のよび名で装われた封建的な孤立化に各自を置き、孤立し無力なもの、抵抗なき者であることを権力に向って標榜して、自己防衛しようとした。この切ない経験・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・これは、天降り風な大衆のための文学創作に抗して、自身のこの社会での生れ、在り場所、生きかたから、書かれるものはおのずから誇高き庶民の文化であることが標榜されている。武田麟太郎氏がそのトップに立っているのである。 然しながら、ここで云われ・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・ この書は、それ自身の標榜するところによると、武田信玄の老臣高坂弾正信昌が、勝頼の長篠敗戦のあとで、若い主人のために書き綴ったということになっている。内容は、武田信玄の家法、信玄一代記、家臣の言行録、山本勘助伝など雑多であるが、書名から・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫