・・・て、霜降のめりやすを太く着込んだ巌丈な腕を、客商売とて袖口へ引込めた、その手に一条の竹の鞭を取って、バタバタと叩いて、三州は岡崎、備後は尾ノ道、肥後は熊本の刻煙草を指示す……「内務省は煙草専売局、印紙御貼用済。味は至極可えで、喫んで見た・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・ 僕は手をたたいて人を呼び、まだ起きているだろうからと、印紙を買って投函することを命じた。一つは、そこの家族を安心させるためであったが、もし出来ない返事が来たらどうしようと、心は息詰まるように苦しかった。「………」吉弥もまた短い手紙・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ いまその施薬の総額を見積ると、見舞金が七十人分七百円、薬が二千百円、原価にすれば印紙税共四百二十円、結局合計千二百円が実際に費った金額だ。ところが、この千二百円を施すのに、丹造は幾万円の広告費を投じていることか、広告は最初の一回だけで・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ 六月或日 Y机の前で旅券下附願につける保証書の印を加茂へもらいに送るその用の手紙書きつつ「ねえべこちゃん、これ切手はらないでいいんだろうか――印紙を」「ハハハハもやでもそういう感違いするのね ハハハハ愉快愉・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
出典:青空文庫