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・・・ものいう間もなし、お誓を引倒して、危難を避けさせようとして、且つ及ばなかったのである。 その草伏の小県の目に、お誓の姿が――峰を抽いて、高く、金色の夕日に聳って見えた。斉しく、野の燃ゆるがごとく煙って、鼻の尖った、巨なる紳士が、銃を倒す・・・
泉鏡花
「神鷺之巻」
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・・・るので血気盛りの三郎は家へ引き籠もって軍の話を素聞きにしていられず、舅の民部も南朝へは心を傾けていることゆえ、難なく相談が整ってそれから二人は一途に義興の手に加わろうとて出立し、ついに武蔵野で不思議な危難に遇ったのだ。その危難にあったことが・・・
山田美妙
「武蔵野」