・・・「白縫物語」、森鴎外の「埋木」と「舞姫」「即興詩人」などの合本になった、水泡集と云ったと思うエビ茶色のローズの厚い本。『太陽』の増刊号。これらの雑誌や本は、はじめさし絵から、子供であったわたしの生活に入って来ている。くりかえし、くりかえしさ・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・ この趣の深い回想から、母親思いで「即興詩人」の活字を特に大きくさせたという鴎外の生涯は、その美しい噂の一重彼方では、一通りでなく封建的な親子の関係でいためつけられて来ていたこともうかがわれる。鴎外はそれと正面から争うことに芸術家として・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・カールは子供たちが小さかった時、こういう散歩の道みちに無尽蔵の即興お伽噺をきかせてやった。一人の娘をカールが肩車にのせ、もう一人の娘をW・リープクネヒトが肩車にのせ、息の切れるほど駈けっこをする「騎兵遊び」はマルクス家専売の大人と子供の遊び・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・彼等は活溌に機会を捕え、その場合場合に適した題材で即興的に反宗教、反帝国主義戦争などの小芝居をやっている。が、その沢山の素人劇団の指導は、決して、理想的統一をもってされているとは云えない状態にある。 七月の党大会後、ラップは、これまでラ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ふさわしい場面で、その場にふさわしい曲が舞われるというのが即興として許される限度で、そのふさわしさの判断にあたってやはり一朝一夕でない伝統の理解がものを云うのである。 百貨店の娘さんたちの朝から夕方店を閉じるまでの忙しさ、遑のない客との・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・軍隊の衛生、クラウゼヴィッツの戦争論を訳した筆は即興詩人を訳し、「舞姫」「埋木」「雁」等を書いた。鴎外が晩年伝記を主として執筆したことは、彼の現実の装飾なき美を愛した心からだけ選ばれた道であったろうか。彼の帝国博物館総長図書頭という官職は果・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・そこで人形芝居、即興劇その他で、刻下の社会的問題を芸術化して農民に見せるのだ。同時に、農村ではどんな芝居がよろこばれ、要求されているかということを専門的な立場から研究する。 ――聞いているだけでも一寸わるくないな。儲けばっかり考えている・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ましてや、アンデルセンという北欧の文学者を、その本人の精神よりもロマンティックに日本に紹介した「即興詩人」の訳は出来なかったであろう。文学のえらさはいつもどこか世間並のえらさのけたをはずしている。ゲーテは十八世紀末から十九世紀の初頭にかけて・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ 文学の面ばかりにこういう復古的傾向が見られるのではなくて、音楽の方でも、例えばこの間ピアニストのケムプが来た時、最後の演奏会の日に即興曲を弾いて貰うこととなり、聴衆からテーマを求めた。そのとき出された日本音楽からのという条件つきのテー・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・ 詩人はそのやさしい腕をむねにくんで赤い唇を開いて詩いました、それは即興の美くしいやさしい詩でした。それは、「私は今美くしいローズの香をあびて身をふるわして居る。けれ共、意志(の悪い夜のとばりは黒いまくでおおってしまってどうしても私に姿・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
出典:青空文庫