・・・省作は無頓着で白メレンスの兵児帯が少し新しいくらいだが、おはまは上着は中古でも半襟と帯とは、仕立ておろしと思うようなメレンス友禅の品の悪くないのに卵色の襷を掛けてる。背丈すらっとして色も白い方でちょっとした娘だ。白地の手ぬぐいをかぶった後ろ・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・くりくり頭に桃色のへこ帯がひとり、角子頭に卵色のへこ帯がふたり、何がおもしろいか笑いもせず声も立てず、何かを摘んでるようすだ。自分はただかぶりの動くのとへこ帯のふらふらするのをしばらく見つめておった。自分も声を掛けなかった、三人も菓子とも思・・・ 伊藤左千夫 「奈々子」
・・・ 暖い卵色の太陽が、二つぴったりと並んだ仲のよい二人のお友達の影を、さも悦しそうに、明るい白い障子の上に、パッと照し出しました。〔一九二〇年五、六月〕 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・○緑色と卵色の縞のブラインドのすき間からは、じっと動かない灯と絶えず揺れ動く暖炉の焔かげとが写り、時に、その光波の真中を、若い女性らしい素早い、しなやかな人かげが黒く横切った。○子供は、両端の小さくくれたくくり枕のような体を・・・ 宮本百合子 「結婚問題に就て考慮する迄」
・・・太陽の明るみが何時か消えて、西岸に聳えるプロスペクト山の頂に見馴れた一つ星が青白く輝き出すと、東の山の端はそろそろと卵色に溶け始めます。けれども、支えて放たれない光りを背に据えた一連の山々は、背後の光輝が愈々増すにつれて、刻一刻とその陰影を・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・木立の上で、緑、黄、卵色をよりまぜた有平糖細工みたいなビザンチン式教会のふくらんだ屋根が、アジア的な線でヨーロッパ風な空をつんざいている。 掘割に沿って電車が走って行く。 再び公園だ。菩提樹のなかにロシアのイソップ・クルイロフの・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・―― そうかと思うと、彼等は俄に生きものらしい衝動的なざわめきを起し、日が沈んだばかりの、熱っぽい、藍と卵色の空に向って背延びをしようと動き焦るように思われる。 夜とともに、砂漠には、底に潜んだほとぼりと、当途ない漠然とした不安が漲・・・ 宮本百合子 「翔び去る印象」
・・・足なんかもさえた卵色をして居る。 食べるのは惜しいからこのまんま飼おうと云ったが聞き入れられなかった。甚五郎爺も、あまり食物がないからとってきたのにたべないなら又放して仕舞うとさっさと足を握って裏へつれて行って仕舞った。 鴨の肉は好・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 雄鴨は小虫を一匹飲み込みながら、卵色の足を浮かせてもう一度、大きな大きな羽ばたきをして、雌鴨の小さい茶色の頭を擽った。 二羽は此上ないよろこばしさに胸をワクワクさせながら歩いた。 自分達の周囲には、不幸なものや、恐ろしい目・・・ 宮本百合子 「一条の繩」
・・・ 赤みを帯びた卵色の地の色と、常緑樹と、軽い水色の空は、風景にふしぎな愛しみと暖かみを与える。とりのこされた綿の実が、白く見える耕地からゆるやかな起伏をもって延びて居る、色彩の多い遠景、近くに見ると、色絨壇のような樹々の色も、遠くなるに・・・ 宮本百合子 「無題(二)」
出典:青空文庫