・・・故二葉亭に関する坪内君の厚情は実に言舌を以て尽しがたいほどで、私如きは二葉亭とは最も親密に交際して精神上には非常に誘掖されてるにも関わらず、二葉亭に対していまだかつて何も酬うておらぬ。坪内君に対して実に恥入る。かつまた二葉亭に対して彼ほど厚・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・賢一は、ただ、その厚情に感謝しました。彼は負傷したことを故郷の親にも、老先生にも知らさなかったのです。孝経の中に身体髪膚受之父母。不敢毀傷孝之始也。と、いってあった。 彼は、自分の未だ至らぬのを心の中で、悔いたのでありました。・・・ 小川未明 「空晴れて」
・・・私も、女も、中畑さんの厚情に甘えて、矢鱈に我儘を言い、実にさまざまの事をたのんだのである。その頃の事情を最も端的に説明している一文が、いま私の手許にあるのでそれを紹介しよう。これは私の創作「虚構の春」のおしまいの部分に載っている手紙文である・・・ 太宰治 「帰去来」
出典:青空文庫