・・・ 四 ある家の告別式に参列して親類の列に伍して棺の片側に居並んでいた。参拝者の来るのが始めのうちは引切りなしに続いてくるが三十分もたつと一時まばらになりやがてちょっと途切れる。またひとしきりどかどかと続いて来・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・くちびるの色が著しくあかく見えた事、長い髪を手でなで上げるかたちがこの人の印象をいっそう憂鬱にした事などが目に浮かんで来る。参拝を終わってみんなが帰る時にK君が「どうだ、あとで来ないか」と言った時に黙ってただ軽く目礼をしただけであったと覚え・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・ 翌日自分は昨夜降りた三門前で再び電車を乗りすて、先ず順次に一番端れなる七代将軍の霊廟から、中央にある六代将軍、最後に増上寺を隔てて東照宮に隣りする二代将軍の霊廟を参拝したのである。この事は巳に『冷笑』と題する小説中紅雨という人物を借り・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・○男「新宿は二十七日っきりだから、浅川だけだね、参拝するなあ」中女「うれしいねえ」 「だけど月経がさ」 「フッ!」男「いや 女は……見たような気はしないし、ちょいちょいちょいちょい――行きたくって――」若女「車で・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・私共が御堂内にいる間に、女が二人参拝に来た。祭壇に近い柱のかげに坐り、包みから白い布を出してヴェイルとする。その被衣姿、二十六聖徒殉教図などに描かれているままであった。 同じ日に浦上の天主堂も観た。大浦天主堂は日本最古の建築、浦上のは最・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・「新宿は二十七日っきりだから、浅川だけだね、参拝するなあ」「嬉しいねえ」 年増の女は駭然として「だけど月経がさ」と座りなおしたような声を出した。「フッ!」「いや女は……」 男は真面目に云った。「見たような・・・ 宮本百合子 「町の展望」
・・・だから数万の人々はこの正月に明治神宮を参拝して、摂政宮殿下の万歳を叫び、或いは安泰を祈り、それでもって右のような心持ちを表現した。 警衛ということはそういうわけで実現ができない。それでは街頭の宣伝はどうであろうか。これまで人前で演説など・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫