・・・りやすい、俳句に松の句もあるけれど松の句には俗なのが多くて、かえって冬木立の句に雅なのが多い、達磨なんかは俳句に入れると非常に厭味が出来る、これ位の事は前から知って居たのであるけれどそれを画の上に推し及ぼす事が出来なんだのである。俳句を知ら・・・ 正岡子規 「画」
・・・のと、積極的なものとあり、ある人の一生の時期の微妙な潮のさしひき、社会と個人との結合の関係などによって、恋愛のそれぞれの性質が発端において何れかに決せられると共に、発展の過程で恐ろしい作用を生活の上に及ぼすものだという事実を、無邪気に或は溺・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・したがって、社会の心理に及ぼす効果をしらべると、戦争なんて、いやですわねえ、とあっちできこえこちらで囁かれる声が、却ってまるで戦争のさけがたさとそれがもう予定されて動かせない事実であるかのような錯覚に導いていた傾きさえあったといえる。一人一・・・ 宮本百合子 「今年のことば」
・・・また従って、言語の正確、明瞭、単純ということは、人が事実を創造する諸過程や事実が人に及ぼす影響の諸過程を正しく明らかに表現するために、絶対的に必要なことである」と。 言葉は先ず民衆の生きている現実によってつくられる。子供のための文学の仕・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・けれども、女囚の生活、獄中生活が女性に及ぼす精神的の影響等は余り一般に知られていない。例えば免囚保護という言葉に、はっきり女性の免囚も含有す、という意識があるか。 従来、女と云えば誰人かの娘、妻、姉妹、という附属的地位にあった。女性が刑・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・人民生活に砂糖の消費が制限されるようになって来て、遂に全く砂糖なしになって来た頃、いろいろな栄養学者、医者たちは、あれほど口と筆との力をそろえて、砂糖が人体に及ぼす害について宣伝した。砂糖は骨格をよわくする。砂糖は血液を酸化させる。砂糖は人・・・ 宮本百合子 「砂糖・健忘症」
・・・同時に、稲のできばえによって、年貢の上り高がちがう地主が、自己の利害の打算から、その季節と雨とが作物に及ぼす関係を敏感に計算する、その感情の生々しさも理解し得ないであろう。 同じ雨の朝を、登校する小学生のすべてが、同じ感情で眺めるであろ・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・しかし不自由はせぬらしく、又久右衛門に累を及ぼすような事もないらしい。殊に婆あさんの方は、跡から大分荷物が来て、衣類なんぞは立派な物を持っているようである。荷物が来てから間もなく、誰が言い出したか、あの婆あさんは御殿女中をしたものだと云う噂・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・純粋客観外的客観の表象能力に及ぼす作用の表象が、感覚である。文学上に用いられた感覚なる概念も、要するにその感覚の感覚的表徴と変えられた意味を簡略しての感覚である。しかし、それなら、われわれは感覚と官能とを厳密に区別しなくてはならなくなる。だ・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・彼の職務は或る作品がいかなる芸術的価値を持つかを定めることではなく、ただそれが公開される場合に公衆に対していかなる影響を及ぼすかを精確に判定し、その影響が社会の秩序を紊乱し善良な風俗を壊乱するようなものであった場合に、その公開を禁止すること・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫