・・・強権と友愛、所有と無欲、これである。平和への手段として、強権を肯定することは、畢竟、暴力の讃美に他ならない。この意味に於て平和への途は、強権を否定して、他の真理に道を見出すことである。所有することに於て、幸福を見出すものと、無欲に帰すること・・・ 小川未明 「自由なる空想」
・・・ですから彼はピシアスとデイモンとの二人のこの信実と友愛とを見ると、本当に何よりもうらやましくて堪りませんでした。 彼は二人に向ってたのみました。「どうぞ、これから私をもお前さんたち二人の仲間に入れておくれ。そして三人で本当の友だちに・・・ 鈴木三重吉 「デイモンとピシアス」
・・・従って敵対もなければ友愛もない。 王蛇とガラガラ蛇との二つの世界は重なり合っている。そこで食うか食われるかの二つのうちの一つしか道がない。 この二つの蛇の決闘は指相撲を思い出させる。王蛇のほうの神経の働く速度がガラガラ蛇のそれよりも・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・巻一つの内儀さんや、ふんどしひとつのすねをたたきながら、ひさし下のしおたれた朝顔のつるをなおしているおやじさんや、さわがしい夕飯まえの路地うちをいくつもまがってから、長屋のはしっこの家のかど口に「日本友愛会熊本支部事務所」とかいた、あたりに・・・ 徳永直 「白い道」
・・・夫婦の倫、紊れずして、親子の親あり、兄弟姉妹の友愛あり。すなわち人間の家を成すものにして、これを私徳の美という。内に私徳の修まるあれば、外に発して朋友の信となり、治者被治者の義となり、社会の交際法となるべし。 けだし社会は個々の家よりな・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・けれども、異性の間でも、友情が友情としての感情内容をはっきりうけてあらわれた場合、その感情の本質は、あくまで友愛であって恋愛ではないし、それが友愛として持つ感情の性質では、同性の間の友情の本質とまったく同じ社会的な地盤に立っているものである・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・、非常によく両性の友人としての交際に訓練されていて、そのために氏は多くのことを学び、男と女との間に友情がまっとうされるためには守るべきいろいろの限界が在ることと、そして、それを守る節度によってますます友愛はそのものとして清潔に美しくあり得る・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・ 私の囲りには常にめぐみと友愛と骨肉のいかなる力も引き割く事の出来ない愛情の連鎖がめぐって居るではないか。 実に感謝すべき事である。 夢の如く生れて音もなく消え去った私の妹の短かい、何の足跡も残さない一生涯を見るにつけ、知らず知・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・ 現実の不条理からひきはなして、たとえばフランスのように小さい銀貨の上へ、友愛だの信義だの自由だのという文字を鋳りつけることは、云って見れば何とたやすいことだろう。 自分がほかならぬ一人の女として、この世代のうちに生きているというこ・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・仲間としての友愛、友達としての友情、同志としての結合、そういう社会的な結び合いの中にある純潔さは、男と女の自然な特殊性を十分に主張しながらも、それを貫いてもう一つ互いの間に持たれている共通な目的によって結ばれている。具体的な例でいえば、ここ・・・ 宮本百合子 「社会生活の純潔性」
出典:青空文庫