・・・ 鳥打帽に双子縞の尻端折、下には長い毛糸の靴足袋に編上げ靴を穿いた自転車屋の手代とでもいいそうな男が、一円紙幣二枚を車掌に渡した。車掌は受取ったなり向うを見て、狼狽てて出て行き数寄屋橋へ停車の先触れをする。尾張町まで来ても回数券を持って・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・「あれきっと双子のお星さまのお宮だよ。」男の子がいきなり窓の外をさして叫びました。 右手の低い丘の上に小さな水晶ででもこさえたような二つのお宮がならんで立っていました。「双子のお星さまのお宮って何だい。」「あたし前になんべん・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・「オーソクレさん。かまわないで下さい。あんまりこいつがわからないもんですからね。」「双子さん。どうかかまわないで下さい。あんまりこいつが恩知らずなもんですからね。」「ははあ、双晶のオーソクレースが仲裁に入った。これは実におもしろ・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・つまりそれだ。つまり双子星座様は双子星座様のところにレオーノ様はレオーノ様のところに、ちゃんと定まった場所でめいめいのきまった光りようをなさるのがオールスターキャスト、な、ところがありがたいもんでスターになりたいなりたいと云っているおまえた・・・ 宮沢賢治 「ひのきとひなげし」
双子の星 一 天の川の西の岸にすぎなの胞子ほどの小さな二つの星が見えます。あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星さまの住んでいる小さな水精のお宮です。 このすきとおる二つのお宮は、まっすぐに向い合っ・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
出典:青空文庫