・・・これは先刻風呂に這入った反動が来たのであるけれど、時機が時機であるから、もしやコレラが伝染したのであるまいかという心配は非常であった。この梅干船(この船は賄が悪いのでこの仇名が我最期の場所かと思うと恐しく悲しくなって一分間も心の静まるという・・・ 正岡子規 「病」
・・・大衆的な某誌は、その反動保守的な編輯方針の中で、色刷り插絵入りで、食い物のこと、悲歎に沈む人妻の涙話、お国のために疲れを忘れる勤労女性の実話、男子の興味をそそる筆致をふくめた産児制限談をのせて来た。 また、或る婦人雑誌はその背後にある団・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・ 二 日本の新聞の歴史は、こうして忽ち、反動的な強権との衝突の歴史となったのであるが、大正前後、第一次欧州大戦によって日本の経済の各面が膨脹したにつれて、いくつかの大新聞は純然たる一大企業として、経営される・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・さき頃の映画の東宝問題というものがでると、誰にもファシズムの反動文化政策というものが分るし、まして、この頃のような社会情勢に対してファシズムの圧力を感じ、それに対して反対の声をあげない人はありません。三鷹事件、下山事件の新聞記事の扱いかたな・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・それが過ぎると反動が来て、沈鬱になって頭を低れ手を拱いて黙っている。 宇平がこの性質には、叔父も文吉も慣れていたが、今の様子はそれとも変って来ているのである。朝夕平穏な時がなくなって、始終興奮している。苛々したような起居振舞をする。それ・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・なぜというに、どこの国、いつの世でも、新しい道を歩いて行く人の背後には、必ず反動者の群がいて隙を窺っている。そしてある機会に起って迫害を加える。ただ口実だけが国により時代によって変る。危険なる洋書もその口実に過ぎないのであった。 ・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
終始末期を連続しつつ、愚な時計の振り子の如く反動するものは文化である。かの聖典黙示の頁に埋れたまま、なお黙々とせる四騎手はいずこにいるか。貧、富、男、女、層々とした世紀の頁の上で、その前奏に於て号々し、その急速に於て驀激し・・・ 横光利一 「黙示のページ」
・・・家康自身はかならずしも時代に逆行するつもりはなかったかもしれないが、彼の用いた羅山は明らかに保守的反動的な偏向によって日本人の自由な思索活動を妨げたのである。それが鎖国政策と時を同じくして起こったのであるから、日本人の思索活動にとっては、不・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・狂熱的な僧侶の反動もただ大勢に一つの色彩を加えたに過ぎなかった。しかし再興せられた偶像はもはや礼拝せらるべき神ではない。何人もその前に畜獣を屠って供えようとはしなかった。何人もその手に自己の運命を委ねようとはしなかった。人々に身震いをさせた・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・ ここに恐らく自然主義の薄弱な反動に過ぎない理由があるのである。十九世紀後半が生んだ偉大なものは、たとえ自然主義のいい影響をうけていたにしても、決して自然主義的な本質を持ってはいなかった。そこには常に自然主義以上のものがあった。この事実・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫