・・・そういう絵に限って大概価値と反比例に大きな壁面を占有していると思う事もあった。そういう絵はむしろ小形の下絵を陳列した方がいいかもしれない。私はある種の装飾的の絵は実際そうした方が審査員にも作家にもまた観賞者にも双方便宜ではないかと考えている・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・ 正面の築山の頂上には自分の幼少のころは丹波栗の大木があったが、自分の生長するにつれて反比例にこの木は老衰し枯死して行った。この絵で見ると築山の植え込みではつつじだけ昔のがそのまま残っているらしい。しかし絵の主題になっている紅葉は自分に・・・ 寺田寅彦 「庭の追憶」
・・・ 暗示の力は文句の長さに反比例する。俳句の詩形の短いのは当然のことである。 仏人メートル氏が俳句について述べていた中に「俳諧は読者を共同作者とする」という意味の言葉があったと思う。実際読者の中に句の提供する暗示に反応し共鳴すべきもの・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・もしも重力が距離の自乗に反比例せずして距離自身に比例するのであったら結果は収斂しないのである。 もし物質間の引力が距離によらず同一であったり、あるいは距離の大なるほど大であったと仮定したら、天地万物の運動はすべて人間には端倪する事の出来・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・ むしろあまりに悪達者な漫画家の技巧がその内容と反比例を示す場合も少なくないように見える。それは技巧が跳躍して科学的真の圏外に逸出するためである。 こういう意味で私は本当の漫画と低級なポンチあるいはくすぐり画とを区別したい。後者の実・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・ 色の青白い、瘠せた、胸の薄い、頭の大きいのと反比例に首筋の小さい、ヒョロヒョロした深谷であった。そのうえ、なんらの事件のない時でさえ彼は、考え込んでばかりいて、影の薄い印象を人に与えていた。だが、彼はベッドに入ると直ぐに眠った。小さな・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・慌しく忙しく流行作家は長篇を書き下しつづけたのであったが、この商業的な文学の隆昌が、昭和十四年度にははっきり文学のインフレ景気という名称を蒙って、出版界の賑かさに反比例する文学の質の低下が真面目に注目されるようになった。 文学の精神は自・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・日本の文化上の経験としては、未曾有の荒っぽさ、渾沌、無選択の反映であり、読者の経済能力と反比例する読書の基準の喪失が云われるのである。 どんな本でも本でさえあれば売れる、と言う言葉ほど人間をばかにしたことはないと思う。食わせさえすれば何・・・ 宮本百合子 「日本文化のために」
・・・食糧の計画的生産、計画的配給は日本では手後れに計画されて、しかも各生産部門における能率低下の原因と反比例する増産の必要に追立てられた。男手を失った農村の婦人達が、割当だけの供出量を生産して軍需を充たし、なお自分のところへ幾らかの余剰を残すた・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫