・・・これを折り合わせるためには社会の習慣を変えるか、肉体の感覚美を棄てるか、どっちかにしなければなりません、が両方共強情だから、収まりがつきにくいところを、無理に収まりをつけて、頓珍漢な一種の約束を作りました。その約束はこうであります。「肉体の・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・泰山もカメラの裏に収まり、水素も冷ゆれば液となる。終生の情けを、分と縮め、懸命の甘きを点と凝らし得るなら――然しそれが普通の人に出来る事だろうか? ――この猛烈な経験を嘗め得たものは古往今来ウィリアム一人である。・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・ 船長は、横柄に収まりかえっていられる筈の、船長室にはいなくて、サロンデッキにいた。 ボースンとナンバンとが、サロンデッキに現れるや否や、彼は遠方から呶鳴った。「フォア、ピークのガットを開けろ。そして、死人と、病人とを中へ入れろ・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・ 騒擾の際に敵味方相対し、その敵の中に謀臣ありて平和の説を唱え、たとい弐心を抱かざるも味方に利するところあれば、その時にはこれを奇貨として私にその人を厚遇すれども、干戈すでに収まりて戦勝の主領が社会の秩序を重んじ、新政府の基礎を固くして・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・――その解決が付けば、まずそのライフだけは収まりが付くんだから。で、私の身にとると「くたばッて仕舞え!」という事は、今でも有意味に響く。そこでこの心持ちが作の上にはどう現れているかと云うと、実に骨に彫り、肉を刻むという有様で、非常な苦労で殆・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・ 痛さは納まりそうにないので、体の全力を両足に集めて漸く立ちあがり得た栄蔵は、体を二つに折り曲げたまま、額に深い襞をよせて這う様にして間近い我家にたどりついた。 土間に薪をそろえて居たお節は、この様子を見ると横飛びに栄蔵の傍にかけよ・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 到頭詩人夫妻が小型に納まり、こちらは四人で動き出した。 チフリスのホテルも同じであったが、始めそういうことで心意気が見えすき、それに連関して細々と不快なことがあった。順に行くとクリミヤで同じ道を辿るので、一つ此処で、ぐっと方向を換・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・ 六 重吉の左脚の筋炎は、一週間ほどして段々納まりはじめた。日当りのいい八畳に臥ている重吉の湿布をとりかえながら、「こんどの足いたは、可哀想だったけれど、わるいばかりでもなかったわねえ」 ひろ子が、云っ・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・という意味のところで一応納まりました。「敏子」さんの投書と、「愛子」さんの投書の中に、共産党という三字があって、これを幸とつかまえられたのです。 四十日ばかり経つと、いつの間にか、調べの中心点がかわってきた。初め私は日本プロレタリア文化・・・ 宮本百合子 「ますます確りやりましょう」
出典:青空文庫