・・・ 六の小さい体は、椅子の刳込みにポックリと工合よく納まる。 嬉しさで半ば夢中だった彼が、ようよう少し落付いてあたりを見まわしたときには、もう自分の体はいつの間にか、すっかり町を離れて、或る川の傍まで運ばれて来たのを知った。 河原・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・それでもやっぱり離れ切りもしないでこう円満に納まるんだから」「喧嘩して却ってよくなったのかもしれない」「そんなことよ。喧嘩せざる藍子、喧嘩せる黒川に美枝子を奪わる」 藍子は暫く黙っていたが、「洒落てるな。私もどっかへ行きたく・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・ 小波瀾が納まると、再び、待ちくたびれてどんよりとした重苦しさが場内に拡がった、そこへ不意にパッと満場の電燈が打った。わーというような無邪気な声と笑いが一斉に低いながら湧きおこった。国技館でも灯が入った刹那にはやはり罪のない歓声が鉄傘を・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・荷風の本質は多分にお屋敷の規準、世間のおきてに照応するものを蔵していて、しかもその他面にあるものが、自身の内部にあるその常識に抵抗し、常識に納まることを罵倒叱咤し、常識の外に侘び住まんことを憧れ誘っている。ロマンティストであるとして荷風のロ・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・こうして森厳な伝統の娘、ハプスブルグのルイザを妻としたコルシカ島の平民ナポレオンは、一度ヨーロッパ最高の君主となって納まると、今まで彼の幸福を支えて来た彼自身の恵まれた英気は、俄然として虚栄心に変って来た。このときから、彼のさしもの天賦の幸・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫