・・・近頃ではこれらの書籍を蒐集しただけでも優に相応の図書館は一杯になるだろうと思われる位である。けれども真の観察と、真の努力と、真の同情と、真の研究から成ったものは極めて乏しいと断言しても差支はあるまい。余はこの乏しいものの一として、先生の歴史・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・単に蒐集狂という点から見れば、此煙管を飾る人も、盃を寄せる人も、瓢箪を溜める人も、皆同じ興味に駆られるので、同種類のもののうちで、素人に分らない様な微妙な差別を鋭敏に感じ分ける比較力の優秀を愛するに過ぎない。万年筆狂も性質から云えば、多少実・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
・・・その制作を系統だてて蒐集しているという人が果してあるだろうか。女の画家は、画壇で統領となれないから売れないと云われるが、画壇で統領になれないのは、現在の社会へ女が入ってゆくためには、門が限られているということの一つの反映でもある。画壇政治を・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・ 感覚的な芸術である美術や音楽の領域の開発のためには、どれほどこういう実験的資料の蒐集が必要であろかということは想像される。ソヴェト同盟は新しい社会的土台において諸芸術をめざましく開花させたが、各部門の発達のテンポを見ると、文学、演劇が・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・ ほんの短い期間だけ、或る工場なり集団農場なりへ出かける作家たちにとっては、自分の見学、材料蒐集をやるだけで殆どいっぱいだ。そこの大衆のために何かあとまでのこって役に立つような文化的助力を与えるということは、時間的に困難なばかりではない・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 今日の図書館員の目から見れば、此那大ざっぱな、まとまりのない目録は稚拙の極で、小規模の箇人蒐集をまとめる役にも立たないように思えるに違いない。けれども、私にこの部門の配列の順序その他は、何となく分業以前の人間の暖さ、正直さ、真実さのほ・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・ある夏の夜御飯によばれ、古田中氏も微醺を帯びて、夫人の蒐集して居られる大小様々の蛙の飾りをおもしろく見たこともある。このお宅の頃は、数度上った。そして、何ということもない雑談の間に、夫人が西村家の明治時代らしく、大づかみで活溌な日常生活の中・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・だけれども、それは現在その地方でも実用には使われていないという風なものを蒐集して、仮に客間の壁にかけて置くという趣味が、果して美しさに敏感な心と云えるだろうか。 又、外国の宮殿を見ると、よく支那の間とか、トルコの間とかいう室がつくられて・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・慶長四年の『孔子家語』、『六韜三略』の印行を初めとして、その後連年、『貞観政要』の刊行、古書の蒐集、駿府の文庫創設、江戸城内の文庫創設、金沢文庫の書籍の保存などに努めた。そうして慶長十二年には、ついに林羅山を召し抱えるに至った。家康がキリシ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・それを聞いていて私は原三渓の蒐集品を見せたくなったのである。三渓の蒐集品は文人画ばかりでなく、古い仏画や絵巻物や宋画や琳派の作品など、尤物ぞろいであったが、文人画にも大雅、蕪村、竹田、玉堂、木米などの傑れたものがたくさんあった。あれを見たら・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫