・・・主観的な意味を求めてみたが、得たものはただ取り止めの付かぬ妄想に過ぎなかった。 しかし、誰か厄年の本当の意味を私に教えてくれる人はないものだろうか。誰かこの影の薄くなった言葉を活かして「四十の惑い」を解いてくれる人はないだろうか。・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
ただ取り止めもつかぬ短夜の物語である。 毎年夏始めに、程近い植物園からこのわたりへかけ、一体の若葉の梢が茂り黒み、情ない空風が遠い街の塵を揚げて森の香の清い此処らまでも吹き込んで来る頃になると、定まったように脳の工合が・・・ 寺田寅彦 「やもり物語」
・・・夢は東洋では五臓の疲れなどと言われ、また取り止めもないものの代表者としてあげられ、また一方では未来の予言者としてだいじに取り扱われもした。西洋でも同様であったらしい。しかしいわゆる「夢判断」はフロイドの多年の研究によって今までとはちがった意・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
子供の時分から病弱であった私は、物心がついてから以来ほとんど医者にかかり通しにかかっていたような漠然とした記憶がある。幸いに命を取り止めて来た今日でもやはり断えず何かしら病気をもっていない時はないように思われる。簡単なラテ・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・ただあまり広すぎて、取り止めがないじゃないか」「それああなた、まだ家が建てこまんからそうですけれど……」「何にしろ広い土地が、まだいたるところにたくさんあるんだね。もちろん東京とちがって、大阪は町がぎっしりだからね。その割にしては郊・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
出典:青空文庫