・・・ 二 間牒 明治三十八年三月五日の午前、当時全勝集に駐屯していた、A騎兵旅団の参謀は、薄暗い司令部の一室に、二人の支那人を取り調べて居た。彼等は間牒の嫌疑のため、臨時この旅団に加わっていた、第×聯隊の歩哨の一人に、今・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・罪人が取り調べを受ける時でも、これだけの苦痛はなかろうと思われる。おとよは胸で呼吸をしている。「おとよ……お前の胸はお千代から聞いて、すっかり解った。親の許さぬ男と固い約束のあることも判った。お前の料簡は充分に判ったけれど、よく聞けおと・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・跡から取調べたり、周囲の人を訊問して見たりすると、女房は檻房に入れられてから、絶食して死んだのであった。渡された食物に手を付けなかったり、また無理に食わせられてはならぬと思って、人の見る前では呑み込んで、直ぐそれを吐き出したこともあったらし・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・ 遺物を取り調べて見たが、別に書物もなかった。夫としていた男に別を告げる手紙もなく、子供等に暇乞をする手紙もなかった。ただ一度檻房へ来た事のある牧師に当てて、書き掛けた短い手紙が一通あった。牧師は誠実に女房の霊を救おうと思って来たのか、・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・王仁三郎旦那は、取調べに当った検事に向って、「昭和二十年の八月二十日には、世界に大変動が来る。この変動は日本はじまって以来の大事件になる」 と予言して、検事に叱り飛ばされたということである。 私は予言というものを大体に於て信じな・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・兵卒で、取調べを受ける場合に立つと、それが如何にも軽蔑さるべき、けがらわしいことのように取扱われた。不品行を誇張された。三等症のように見下げられた。ポケットから二三枚の二ツに折った葉書と共に、写真を引っぱり出した時、伍長は、「この写真を・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・ ――遺物を取り調べて見たが、別に書物も無かった。夫としていた男に別を告げる手紙も無く、子供等に暇乞をする手紙も無かった。唯一度檻房へ来た事のある牧師に当てて、書き掛けた短い手紙が一通あった。牧師は誠実に女房の霊を救おうと思って来たのか・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・跡から取調べたり、周囲の人を訊問して見たりすると、女房は檻房に入れられてから、絶食して死んだのであった。渡された食物を食わぬと思われたり、又無理に食わせられたりすまいと思って、人の見る前では呑み込んで、直ぐそれを吐き出したこともあったらしい・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ 私はたびたび留置場にいれられ、取調べの刑事が、私のおとなしすぎる態度に呆れて、「おめえみたいなブルジョアの坊ちゃんに革命なんて出来るものか。本当の革命は、おれたちがやるんだ。」と言った。 その言葉には妙な現実感があった。 のち・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・江戸でこの取調べに当ったのは、新井白石である。 長崎の奉行たちがシロオテを糺問して失敗したのは宝永五年の冬のことであるが、そのうちに年も暮れて、あくる宝永六年の正月に将軍が死に、あたらしい将軍が代ってなった。そういう大きなさわぎのた・・・ 太宰治 「地球図」
出典:青空文庫