・・・魚住もある時期この錯雑した事情にまけて、受動的な頬杖をついたような気分で暮すが、日頃目をかけていた黒須千太郎をこめる集団脱走事件がおこり、折からの大雪で凍死するにきまっている千太郎を救おうという情熱によって振い立ち、情熱をもって一事を敢行し・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・唯受動的に自己自身と他からの働きかけの間の調整を求めるもの、ただ合図の叫びとして在るのではなく、散文は自己と外からのものとの間から生れた更に新しい一つの人生的な価値を、創作の過程、作品の現実のうちに帰服させつつ、それに拠りたのんでゆくもので・・・ 宮本百合子 「作品のよろこび」
・・・殆ど正気と思われない程受動的な、被暗示的な精神状態において表現し、卑俗に云えば、「余りお前が盗んだと云われるもんでそんな気になっちゃった」という工合に扱っている。しかも、それがインテリゲンツィアは現実より理性にたよるからであるというような観・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・丹羽氏は現実に対して作家の人間的自主的な評価の責任を放棄した過去の受動的リアリズムをすてて、「生きかたの問題」としての文学創作に歩み出ているのであるから、文学作品と、こんにち日本の人民にとって最も悲劇的な軍国主義の復活、戦争挑発の影響の関係・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
・・・生れるという主格の受動性を示す文法上での表現は、とりも直さず我々人間が歴代、子として親を選択することも出来ず、誕生の環境を予測することも出来ず、実に受け身に生まれたのであるという深刻な現実における関係を語っている。而も、一旦生まれた以上、我・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・ルネッサンスは婦人の人間性も解放したけれどもその人間性は、デスデモーナにおいて、どんなにまで受動的であり、分別が不たしかであやうげなものだろう。私達の今日の常識でいえば、非常に大事なハンカチーフをなくした場合は、貴方からいただいたハンカチー・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 公判第一日からきわめて受動的な立場にあった検事団は、第四回公判のこの日一つの計画的な態度をもって出廷した。川口検事が立って、検察側はだんじて拷問、人権蹂躙を行っていない。虚構誇大、事実をまげて検事裁判官、裁判所を誹謗し、演説会で宣伝す・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・それに対して、もとの作家同盟の先輩たちは、当時の私にはその気持が全くのみこめないような受動的態度であった。そういう一つの傾向に対して正当に批評を組織してゆくどころか、正面からその問題にふれることさえなぜだかちゅうちょされているように見える状・・・ 宮本百合子 「近頃の感想」
・・・この人物が四十年のロシアの歴史の波と結びついている、その関係の受動性、謂わば無気力、或る面での歴史の波から個人的な穴の中への遊離は、私達に、作家とその日常生活とはかくも緊密なものであるという一箇の教訓として見える位です。一九三二年にモスクへ・・・ 宮本百合子 「長篇作家としてのマクシム・ゴーリキイ」
・・・ トルストイが、社会の矛盾の根源を人間の本能に帰して、当時のロシアの解放運動とそこに生き死んだ卓抜な男女の生活に冷淡であり、ツルゲーネフが、却って彼の受動性、感受性によってそれらの新しい社会的現象に注意を喚びさまされながら、しかもそ・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
出典:青空文庫