・・・許し物と云って、其の中に口伝物が数々ございます。以前は名人が多かったものでございます。觀世善九郎という人が鼓を打ちますと、台所の銅壺の蓋がかたりと持上り、或は屋根の瓦がばら/\/\と落ちたという、それが為瓦胴という銘が下りたという事を申しま・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三 「梅若七兵衞」
・・・決して決して錬金術師達の口伝からではなかった。錬金術が背後の楯としていた中世の宗教の暗い恐怖すべき力と向いあって、しばしばその恐怖に圧倒されそうになる自分ともたたかいながら、錬金術への疑問を、現実があらわす客観的な真理にしたがって謙遜に解き・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・と伯父さんに口伝して私は又家に戻って帰ったら翌日の晩、「先達ってはどうも……あした朝九時で立ちます。前の家で借りてるんですから……さようなら」 これだけを、あの人は細い金属を通して私に云ったきりで行ってしまった。 私とあの人・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
出典:青空文庫