・・・私は志賀直哉の新しさも、その禀質も、小説の気品を美術品の如く観賞し得る高さにまで引きあげた努力も、口語文で成し得る簡潔な文章の一つの見本として、素人にも文章勉強の便宜を与えた文才も、大いに認める。この点では志賀直哉の功を認めるに吝かではない・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・日本で文学の仕事に従った人が同時に時の権力の精神的、文化的指導者であったのは、極めて短い開化期の文化建設の時期に於てのみであって、明治文学が口語文の様式を堅めた頃は、既に文学者の生活は直接な政治経済の網目の中からは外へ押し出されてしまってい・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・を、当時は珍しい口語文で書いたのであった。 文学を真面目に考えていた少数の人々は二十四歳であった二葉亭のこの作品から深刻に近代小説の方向を暗示された。坪内逍遙が戯曲と沙翁劇の翻訳に自分の一生を方向づける決心をしたのは、この二葉亭の小説の・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
出典:青空文庫