・・・寒くなると、幾百里と遠い南の国へゆき、また春になると古巣を忘れずに帰ってくる。私がもしおまえであったら、こんなに先生にしかられることはないのだが。」と、子供はいいました。 これを聞いていたつばめは、黙ってくびを傾けていましたが、「そ・・・ 小川未明 「教師と子供」
・・・その明くる日、一羽のつばめが古巣にきて、さびしそうにしていましたが、晩方、どこにか飛んでいってしまいました。 小川未明 「つばめの話」
・・・元の古巣へ帰って、元の本屋をしているのだった。バラックの軒には「波屋書房芝本参治」という表札が掛っていた。「やア、帰ったね」 さすがになつかしく、はいって行くと、参ちゃんは帽子を取って、「おかげさんでやっと帰れました。二度も書い・・・ 織田作之助 「神経」
・・・私も階下の四畳半にいてその音を聞きながら、七年の古巣からこの子を送り出すまでは、心も落ちつかなかった。仕事の上手なお徳は次郎のために、郷里のほうへ行ってから着るものなぞを縫った。裁縫の材料、材料で次ぎから次ぎへと追われている末子が学校でのけ・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・芝生の上に置いてもとの古巣の空きがらを頭の所におっつけてやっても、もはやそれを忘れてしまったのか、はい込むだけの力がないのか、もうそれきりからだを動かさないでじっとしていた。 もう一つのを開いて見ると、それはからだの下半が干すばって舎利・・・ 寺田寅彦 「簔虫と蜘蛛」
・・・そればかりでなく、時代の複雑な相貌の必然から、リアリズムは再びもとの自然主義後のリアリズムの古巣へ立ち戻ることも不可能である。その古き巣は時代の広汎な現実を包みかねるのである。リアリズムは謂わばこの時期に於て路頭に迷い出した。今日に引き続く・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 田舎新聞 ○「寒天益々低落 おい大変だぜ 寒天下落だよ 中央蚕糸 紅怨 紫恨 ◇二度の左褄 上諏訪二業 歌舞伎家ではさきに 宗之助 初代福助の菊五郎の二人が古巣恋しくて舞戻ったが、今度は又初代勘彌・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
出典:青空文庫