・・・紹介者に連れて行って貰って、些少の束修――金員でも品物でもを献納して、そして叩頭して御願い申せば、直ちに其の日から生徒になれた訳で、例の世話焼をして呉れる先輩が宿所姓名を登門簿へ記入する、それで入学は済んだ訳なのです。銘々勝手な事を読んで行・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・と罵られた。金八も馬鹿じゃなかった。ハッと気が付いて、「しまった。向後気をつけます、御免なさいまし」と叩頭したが、それから「片鐙の金八」という渾名を付けられたということである。これは、もとより片方しかなかった鐙を、深草で値を付けさせて置いて・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・人形がゆらりゆらり御叩頭をしたり、挙げた両手をぶらぶらさせながら、緩やかに廻転しながら下りて行くのは、ちょっと滑稽な感じのするものである。それが向う河岸の役所の構内へ落ちそうになると、そこの崖で見ていた中年の紳士の一人は急いで駆け出して行っ・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・道端に乞食が一人しゃがんで頻りに叩頭いていたが誰れも慈善家でないと見えて鐚一文も奉捨にならなかったのは気の毒であった。これが柴とりの云うた新坂なるべし。つくつくほうしが八釜しいまで鳴いているが車の音の聞えぬのは有難いと思うていると上野から出・・・ 寺田寅彦 「根岸庵を訪う記」
・・・あなたの眼力には恐れいったと叩頭するとき、人は、嘘もからくりも見とおしだ、という事実を承認したわけになる。 プロレタリア文学の理論は、いくつかの点で、文学とその文学の発生する基盤としての社会とのさまざまの関係を明らかにした。社会科学の到・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・どうしてそんないい条件の『星』や『レーニングラード』が、くだらないゾシチェンコに叩頭したり、アフマートヴァを魅力あると思いちがえしたりしたのだろう。ジダーノフの報告には、それらの雑誌の編輯者が、「友誼上」公私混同したと表現されている。ジダー・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・もし作家が大衆化の意味をあやまって、後者の態度にしたがうようなことがあれば、それは大衆を低めているものの力に屈すと同時に、作家自身を無力化せしめている力にも自身から叩頭することになってしまうであろう。 近頃は、嘗てプロレタリア文学運動に・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・ と云いながら続けさまに叩頭した。勘次は落ちつけば落ちつく程、胸の底が爽やかに揺れて来た。が、秋三は勘次の気持を見破ると、盛り上って来た怒りが急に折れて侮辱の念に変って来た。と同時に安次の弱さに腹の底から憎悪を感じると、彼の掌はいきなり・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫