・・・御食事は勿論、御召し物さえ、御不自由勝ちに違いありませんから。」「いや、衣食は春秋二度ずつ、肥前の国鹿瀬の荘から、少将のもとへ送って来た。鹿瀬の荘は少将の舅、平の教盛の所領の地じゃ。その上おれは一年ほどたつと、この島の風土にも慣れてしま・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・「だって、召物が。」「何、外套を着ています。」 と別に何の知己でもない女に、言葉を交わすのを、不思議とも思わないで、こうして二言三言、云う中にも、つい、さしかけられたままで五足六足。花の枝を手に提げて、片袖重いような心持で、同じ・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・ あなたの召物や何か、これからは本のようになるたけお送りします。いろんな意味で流行っている本もお目にかけますから、どうぞそのおつもりで。きょうはこれでおやめにいたします。私は毎日、特別な心持でポストをあけて居ります。 追伸。お・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫