・・・これを通俗にいえば、夫婦の間、相互いに隔てなくして可愛がるとまでにては未だ禽獣と区別するに足らず。一歩を進め、夫婦互いに丁寧にし大事にするというて、始めて人の人たる所を見るに足るべし。即ち敬の意なり。 然らば即ち敬愛は夫婦の徳にして、こ・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 禰宜様宮田は、あんな不意なことで死んでしまうし、家の畑は、とうとう鬼婆にとり上げられるし、もううんざり仕切っている彼女は、ただ独り遺っている息子の六を可愛がる気もなくなっていた。 若いときから、彼女が働く原動力になっていた意地も何・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 子供を愛する、人間は子供を可愛がるのが本性である。そういう抽象的な一般論の上に無撰択に立っているものではない。おー、貴様は俺の大事な一粒だねだぞ。ウィー、男一匹酒ぐらい呑めないでどうする! ホラ飲んで見ろ。これも可愛がりの一種である。・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
・・・と言うより、極めて現実的な観察から承知したらしいのです。母は二人娘のあった長女で、父親っ子でしたが次女は母親っ子で、昔の家庭ですからお姑も居り、その人も「よっちゃん、よっちゃん」と可愛がるというありさまで、母は母親からは愛されていなかった。・・・ 宮本百合子 「わが母をおもう」
出典:青空文庫