・・・その日私は学校に居りますと、突然旧友の一人が訪ねて参りましたので、幸い午後からは授業の時間もございませんから、一しょに学校を出て、駿河台下のあるカッフェへ飯を食いに参りました。駿河台下には、御承知の通りあの四つ辻の近くに、大時計が一つござい・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・しかしその時はそれきりで、何を考えたという事さえ忘れてしまっていたが、その後二三日たったある日の夕方、駿河台下まで散歩していた時に、とある屋根の上に明滅している仁丹の広告を見るとまた突然この同じ文字が頭の中に照らし出された。あの広告のイルミ・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・ 坂の下り口にかかると、非常に速力をゆるめ、いかにも、曲り角などの様子を気遣う工合でそのバスが行ってしまうと、いれ違いに、一台下から登って来た。 停留場を通りすぎそうなので、私はいそいでかけ出しながら片手をあげ、腰かけてから見ると、・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
出典:青空文庫