・・・ただ、それが稲見家の聖母のせいだったかどうかは、疑問ですが、――そう云えば、まだあなたはこの麻利耶観音の台座の銘をお読みにならなかったでしょう。御覧なさい。此処に刻んである横文字を。――DESINE FATA DEUM LECTI SPER・・・ 芥川竜之介 「黒衣聖母」
・・・そこでその定窯の鼎の台座には、友人だった李西涯が篆書で銘を書いて、鐫りつけた。李西涯の銘だけでも、今日は勿論の事、当時でも珍重したものであったろう。そういうスバらしい鼎だったのである。 ところが嘉靖年間に倭寇に荒されて、大富豪だけに孫氏・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・桃色珊瑚ででも彫刻したようで、しかもそれよりももっと潤沢と生気のある多肉性の花弁、その中に王冠の形をした環状の台座のようなものがあり、周囲には純白で波形に屈曲した雄蕊が乱立している。およそ最も高貴な蘭科植物の花などよりも更に遥かに高貴な相貌・・・ 寺田寅彦 「高原」
・・・ という風な英雄像に彫り上げられた一塊の石にしかすぎぬものが、余り市民の崇敬を受けてその栄耀に傲慢となり、もとは一つ石の塊であった台座の石ころたちと抗争しつつ、遂に自身の地位に幻滅してこっぱみじんに砕けてゆく物語は、平静に、諷刺満々と語られ・・・ 宮本百合子 「春桃」
出典:青空文庫