・・・ まっ黒な着物を着たばけものが右左から十人ばかり大きなシャベルを持ったりきらきらするフォークをかついだりして出て来て「おキレの角はカンカンカン ばけもの麦はベランべランベラン ひばり、チッチクチッチクチー フォークの・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・ 叫びながら右左の人に挨拶を返して行くのでした。「あの人は何ですか。」私は火にあたっているアーティストにたずねました。「撃剣の先生です。」 ところがその撃剣の先生はつかつかと歩いて来ました。「うちの中のあかりを消せい、電・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・箇人の内的運命と外的運命とが、どんなに微妙に、且つ力強く働き合って人の生涯を右左するかと思うと、自分は新しい熱心と謙譲とで、新に自分の前に展開された、多くの仲間、道伴れの生活の奥の奥まで反省し合って見度く思う。自分が人及び女性として、漸々僅・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・かし、短篇であるにしろ従来の私的身辺小説であるまいとする努力はすべての作家の念頭から離れず、一方で三田伸六、車膳六その他の主人公たちが生まれるとともに、他の一面では多くの作家の眼が、今日の生活の前方や右左へ強い観察を放つよりもむしろ後方へ、・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・海市でこしらえたチェックの布地 この胴のところ、バンドの幅ほどくくれて居たの何ともたまらず「仕様がないじゃありませんか じゃ、この幅をひだによせて右左に一本ずつたたみましょう、そうすると、真中に合わせめの線があってなるか・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・子供たちは門外へ一足も出されぬので、ふだん優しくしてくれた柄本の女房を見て、右左から取りすがって、たやすく放して帰さなかった。 阿部の屋敷へ討手の向う前晩になった。柄本又七郎はつくづく考えた。阿部一族は自分と親しい間柄である。それで後日・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・大夫の赤顔が、座の右左に焚いてある炬火を照り反して、燃えるようである。三郎は炭火の中から、赤く焼けている火ひばしを抜き出す。それを手に持って、しばらく見ている。初め透き通るように赤くなっていた鉄が、次第に黒ずんで来る。そこで三郎は安寿を引き・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・二枚敷きても膚を破らんとす。右左に帆木綿のとばりあり、上下にすじがね引きて、それを帳の端の環にとおしてあけたてす。山路になりてよりは、二頭の馬喘ぎ喘ぎ引くに、軌幅極めて狭き車の震ること甚しく、雨さえ降りて例の帳閉じたれば息籠もりて汗の臭車に・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・の一言で聞き捨て、見捨て、さて陣鉦や太鼓に急き立てられて修羅の街へ出かければ、山奥の青苔が褥となッたり、河岸の小砂利が襖となッたり、その内に……敵が……そら、太鼓が……右左に大将の下知が……そこで命がなくなッて、跡は野原でこのありさまだ。死・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫