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・・・彼は確かある年の秋、僕の顔を見るが早いか、吃るように僕に話しかけた。「僕はこの頃僕の妹が縁づいた先を聞いて来たんだよ。今度の日曜にでも行って見ないか?」 僕は早速彼と一しょに亀井戸に近い場末の町へ行った。彼の妹の縁づいた先は存外見つ・・・
芥川竜之介
「彼」
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・・・が、あせる唇の上で言葉になるはずの音が切れ切れに吃るばかりで、ようよう順序立てて云おうとしたことは忽ち、めちゃめちゃに乱れてしまう。 彼はますます深くうなだれるほかなかった。「例え嘘にしろ何にしろ、あの御隠居が、そうと思いこんだとい・・・
宮本百合子
「禰宜様宮田」