・・・ 工場では、モーターや、ベルトや、コムベーヤーや、歯車や、旋盤や、等々が、近代的な合奏をしていた。労働者が、緊張した態度で部署に縛りつけられていた。 吉田はその工場に対してのある策戦で、蒸暑い夜を転々として考え悩んでいた。 蚊帳・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
・・・高いところでラジオ拡声ラッパが二十一度の明るい北方の夏空へギター合奏を流している。ソヴェト十三年の音と光だ。ずらりと並んだ乳母車のなかでは、いる、いる! それ等の音と光に向って薄桃色の臀、腹をむき出したおびただしい赤坊が眠ったり、唇を吸いこ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ 離れの方から マンドリンとピアノの合奏がきこえて来る。◎ひどく雨が降っている。 ○遠くの方で、屋根越しに松の梢がまばらに大きく左右へはり出した枝を ゆすっているのが雨中に見える。 ○柿の木がすっかり葉をおとし、いくつか・・・ 宮本百合子 「情景(秋)」
・・・ 音楽サークル室からは、今夜の余興のマンドリン合奏の稽古をやっている音が洩れる。 戸のところに誰か立ち番していて、外からあけようとすると、「一寸だめだよ! 何用?」と、一々きいているのは、演劇サークル員たちがぎっしりつまって・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・ 雨なんか降ると主婦と娘の、琴と胡弓の合奏をきかしてもらいましたっけ。 でもまあ一人で行くのに温泉は適しませんねえ。」 こんな事を云いながら急に落つかない気持になって居た。 二人はこの頃の海は見つめてると目を悪くするから気を・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・ その熱と、その水とに潤されて、地の濃やかな肌からは湿っぽい、なごやかな薫りが立ちのぼり、老木の切株から、なよなよと萌え出した優雅な蘖の葉は、微かな微かな空気の流動と自分の鼓動とのしおらしい合奏につれて、目にもとまらぬ舞を舞う。 こ・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・夜、御となりで御琴と三味線合奏をはじめられた、楽器の音はうれしかったけれども三味せんのベコベコとうた声の調子ぱずれには少しなさけなかった。七月二十九日 やたらに旅に出て見たい日だった、ただどっか歩きまわって見たくって何にも手につ・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・ せわしい斧の妙な合奏。 樵夫の鈍い叫声に調子づけるように、泥がブヨブヨの森の端で、重荷に動きかねる木材を積んだ荷馬を、罵ったり苛責したりする鞭の音が鋭く響く。 ト思うと、日光の明るみに戸惑いした梟を捕まえて、倒さまに羽根でぶら・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ まともな勤労人民の、文化的な欲求というものは、音楽でみれば職場のハーモニカ合奏団、コーラス団から、ショスタコヴィッチの第九シムフォニーをきいて見たいと思うところまで拡大している。初歩的な機械についての案内書から、資本主義の解説から、ト・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・田舎風な都会、一年の最高頂の時期は、罵声と殴り合いの合奏する巨額な金の集散、そのおこぼれにあずからんとする小人の詭計の跳梁、泥酔、嬌笑に満ち、平日は通俗絵入新聞が地方客に向って撒く文化を糧としつつ、ヴォルガ沿岸の農民対手の小商売で日暮してい・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫