・・・ 戦争が終ると、文化が日本の合言葉になった。過去の文化団体が解散して、新しい文化団体が大阪にも生れかけているが、官僚たる知事を会長にいただくような文化団体がいくつも生れても、非文化的な仕事しか出来ぬであろう。どこを見ても、苦々しいこと許・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・クラブ員相互の合言葉。――一切誓うな。幸福とは? 審判する勿れ。ナポリを見てから死ね! 等々。仲間はかならず二十代の美青年たるべきこと。一芸に於いて秀抜の技倆を有すること。The Yellow Book の故智にならい、ビアズレイに匹敵する・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
事態がたいへん複雑になっている。ゲシュタルト心理学が持ち出され、全体主義という合言葉も生れて、新しい世界観が、そろそろ登場の身仕度を始めた。 古いノオトだけでは、間に合わなくなって来た。文化のガイドたちは、またまた図書・・・ 太宰治 「多頭蛇哲学」
・・・という合い言葉が合理的でまた目的にかなうものだということは、この旗じるしを押し立てて進んで来た近代科学の収穫の豊富さを見ても明白である。科学はたよりない人間の官能から独立した「科学的客観的人間」の所得となって永遠の落ちつき所に安置されたよう・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・という合い言葉が往々はなはだしく誤解されて行なわれるためにすべての質的なる研究が encourage される代わりに無批評無条件に discourage せられ、また一方では量的に正しくしかし質的にはあまりに著しい価値のないようなものが過大・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・一つは、中野君の作品を批評する場合、みんなの合言葉みたいになってつかわれる「詩人」という言葉の内容についてだ。他の一つは、プロレタリア・アレゴリーというものは、難しいもんだな、アレゴリーと諷刺とは、プロレタリア文学の形式として、どっちが広汎・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・ ソヴェト芸術の合言葉はこれである。 大衆の社会主義達成、世界のプロレタリア革命に向って常に、用意しているのだ。 メーデーに赤い広場の歴史的首切り台に飾られた労働者の大群像は祭の後にモスクワ河の河岸にある「文化と休養の公園」の丘・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・ 不安の文学の瀰漫した呼声、それに絡んで作家の教養とか文章道とかが末技的に云われている一面、その頃の合言葉として更に一つの響があった。人生と文学とにおける高邁な精神という標語である。「高邁なる精神」は横光利一氏とその作品「紋章」をとり囲・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・超国家主義の合言葉の下に、世界といえば日本のほかにナチス・ドイツとファシスト・イタリーしか存在しないように。――ラジオの子供の時間が、ドイツとイタリーは日本の親類ですと放送していた、あの女の声、あの男の声をわたしは忘れることができない。・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・義理人情の合言葉が、今日の現実の裡で何かの支えとなり得ているものならば、梶は何のために寝床の中で「あーあ、もとの木阿彌か」と長大息する必要があるであろう。暗夜、迷子になった息子を探しに出て歩きながら、「ふと自分も今自分の子供と同じような目に・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
出典:青空文庫