・・・その土煙の舞い上る合間に、薄紫の光が迸るのも、昼だけに、一層悲壮だった。しかし二千人の白襷隊は、こう云う砲撃の中に機を待ちながら、やはり平生の元気を失わなかった。また恐怖に挫がれないためには、出来るだけ陽気に振舞うほか、仕様のない事も事実だ・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・――その合間には、じれったそうな顔をして、帳場格子の上にある時計の針ばかり気にしていました。 そう云う苦しい思いをして、やっと店をぬけ出したのは、まだ西日の照りつける、五時少し前でしたが、その時妙な事があったと云うのは、小僧の一人が揃え・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・ 土用近い暑さのところへ汁を三杯も啜ったので、私は全身汗が走り、寝ぼけたような回転を続けている扇風機の風にあたって、むかし千日前の常磐座の舞台で、写真の合間に猛烈な響を立てて回転した二十吋もある大扇風機や、銭湯の天井に仕掛けたぶるんぶる・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・ 私は海を見ては合間合間に、その人影に注意し出しました。奇異の念はますます募ってゆきました。そしてついには、その人影が一度もこちらを見返らず、全く私に背を向けて動作しているのを幸い、じっとそれを見続けはじめました。不思議な戦慄が私を通り・・・ 梶井基次郎 「Kの昇天」
・・・ても、いいよ、歯がみんな無くなりゃあ総入歯にするんだ、金歯を光らせて女の子に好かれたって仕様が無い、等と冗談ばかりおっしゃって、一向に歯のお手入れをなさらなかったのに、どういう風の吹き廻しか、お仕事の合間、合間に、ちょいちょいと出かけて行っ・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・たとえば工場の仕事の合間に号令一下で体操をやってまた仕事にとりかかる。海岸で裸で日光浴をやっているオットセイのような群れも号令でいっせいに寝返りを打ってこちらを向く。おおぜいの子供が原っぱに小さなきのこの群れのように並んで体操をやっている。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・また仕事の合間の暇を盗んでの一服もそうである。学生時代に夜更けて天文の観測をやらされた時など、暦表を繰って手頃な星を選み出し、望遠鏡の度盛を合わせておいて、クロノメーターの刻音を数えながら目的の星が視野に這入って来るのを待っている、その際ど・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・先ず私たちは時間の合間合間に砂糖わりの豌豆豆を買って来て教場の中で食べる。その豌豆豆が残るとその残った豌豆豆を先生の机の抽斗の中に入れて置く。歴史の先生に長沢市蔵という人がいる。われわれがこれを渾名してカッパードシヤといっている。何故カッパ・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・電光の合間に、東の雲の海のはてがぼんやり黄ばんでいるのでした。 ところがそれは月が出るのでした。大きな黄いろな月がしずかにのぼってくるのでした。そして雲が青く光るときは変に白っぽく見え、桃いろに光るときは何かわらっているように見えるので・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ 話しの合間合間に交えられる手振も徳田さん独特だし、その手の指には網走の厳しい幾冬かが印した凍傷の痕があるのである。大いに笑う彼の顔を見て、一緒に大笑いしずにいることは困難であろう。 或る演説の中で、徳田さんは、日本婦人の一般は、本・・・ 宮本百合子 「熱き茶色」
出典:青空文庫