・・・本当はね、お母さんとあたしとは同性愛みたいだったのよ。だから、いやらしくって、にくらしくって、そうして、なんだか淋しくて、思いきり我儘して悪い事をして、そうしてお母さんと大喧嘩をしたくて仕様が無かったの。三十ちかくにもなって、まだそんな・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・ そんなにセコチャンと親密ではなかった。同性愛などとは思いもよらない仲であった。ほとんど一度も口さえ利いたことはなかった! 軟らかい墓土はそばに高く撥ねられた。そして棺の上はだんだん低くなった。深谷の腰から下は土の陰に隠れた。 キー・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・男の子との自然で暢び暢びした交渉が行われれば晴れやかに放散される筈の感情が、周囲の事情によって我知らず偽善的に鬱屈して妙に同性愛的傾向をとるのであろう。或る場合、この心理的動機は当事者である娘たちに自覚されていないことが多いのである。・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
出典:青空文庫