・・・私は私の意志からでない同様の犯行を何人もの心に加えることに言いようもない憂鬱を感じながら、玄関に私を待っていた友達と一緒になるために急いだ。その夜私は私達がそれからいつも歩いて出ることにしていた銀座へは行かないで一人家へ歩いて帰った。私の予・・・ 梶井基次郎 「器楽的幻覚」
・・・悲しい事にはこの四郎はその後まもなく脊髄病にかかって、不具同様の命を二三年保っていたそうですが、死にました。そして私は、その墓がどこにあるかも今では知りません。あきらめられそうでいてて、さて思い起こすごとにあきらめ得ない哀別のこころに沈むの・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・ 自ら問いを持ち、その問いが真摯にして切実なものであるならば、その問いに対する解答の態度が同様なものである書物を好むであろう。まず問いを同じくする書物こそ読者にとって良書なのである。かような良書の中で、自分の問いに、深く、強く、また行き・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・そして、も一度、前と同様に手を動かした。 老人は、机のはしに、丸い爪を持った指の太い手をついて、急に座ると腰掛が毀れるかのように、腕に力を入れて、恐る/\静かに坐った。 朝鮮語の話は、傍できいていると、癇高く、符号でも叫んでいるよう・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・ところが源三と小学からの仲好朋友であったお浪の母は、源三の亡くなった叔母と姉妹同様の交情であったので、我が親かったものの甥でしかも我が娘の仲好しである源三が、始終履歴の汚れ臭い女に酷い目に合わされているのを見て同情に堪えずにいた上、ちょうど・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・軍隊の組織は悪人をして其凶暴を逞しくせしむること、他の社会よりも容易にして正義の人物をして痴漢と同様ならしむるの害や、亦他の社会に比して更に大也、何となれば陸軍部内は××の世界なれば也。威権の世界なれば也、階級の世界なれば也。服従の世界なれ・・・ 幸徳秋水 「ドレフュー大疑獄とエミール・ゾーラ」
・・・を持っているのと同様に、もはや今では日本のプロレタリアートも自分自身の「旗日」を持っている! ところが、どうしても残念なことが一つあった。それは隣りの同志が実によく「われ/\の旗日」を知っていることである。……いや、そうでなかった。それ・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・おげんはあの牢獄も同様な場所に身を置くということよりも、狂人の多勢居るところへ行って本物のキ印を見ることを恐れた。午後に、熊吉は小石川方面から戻って来た。果して、弟は小間物屋の二階座敷におげんと差向いで、養生園というところへ行ってきたことを・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・ 今度こそ、眼と耳と両方を使って、彼女の良人は眼と同様に耳も働かせた厳重な検査をし、二度目の、物を云える妻と、結婚しました。〔一九二三年二月〕 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・佐吉さんの兄さんは沼津で大きい造酒屋を営み、佐吉さんは其の家の末っ子で、私とふとした事から知合いになり、私も同様に末弟であるし、また同様に早くから父に死なれている身の上なので、佐吉さんとは、何かと話が合うのでした。佐吉さんの兄さんとは私も逢・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
出典:青空文庫