・・・それには勿論同輩の嫉妬や羨望も交っていた。が、彼を推挙した内藤三左衛門の身になって見ると、綱利の手前へ対しても黙っている訳には行かなかった。そこで彼は甚太夫を呼んで、「ああ云う見苦しい負を取られては、拙者の眼がね違いばかりではすまされぬ。改・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・ただその資質に一点我慢強いところのある上に、維新の際妙な行きがかりから脇道へそれて遂に成るべき功名をも成し得ず、同輩は侯伯たり後進は子男たり、自分は田舎の老先生たるを見、かつ思う毎にその性情は益々荒れて来て、それが慣い性となり遂には煮ても焼・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・ 私は、第一巻のあとがきにも書いておいたように、井伏さんとはあまりにも近くまた永いつきあいなので、いま改って批評など、てれくさくて、とても出来やしないが、しかし、井伏さんの同輩の人たちから、井伏さんの小説に就いての、いろいろまちまちの論・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・聖者の顔を装いたがっている作家も、自分と同輩の五十を過ぎた者の中にいるようだが、馬鹿な奴だ。酒を呑まないというだけの話だ。「なんじら祈るとき、偽善者の如くあらざれ。彼らは人に顕さんとて、会堂や大路の角に立ちて祈ることを好む。」ちゃんと指摘さ・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・翰は平生手紙をかくにも、むずかしい漢文を用いて、同輩を困らせては喜んでいたが、それは他日大にわたしを裨益する所となった。わたしは西洋文学の研究に倦んだ折々、目を支那文学に移し、殊に清初詩家の随筆書牘なぞを読もうとした時、さほどに苦しまずして・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・それ故にまた重吉は、他の同輩の何人よりも、無智的な本能の敵愾心で、チャンチャン坊主を憎悪していた。軍が平壌を包囲した時、彼は決死隊勇士の一人に選出された。「中隊長殿! 誓って責務を遂行します。」 と、漢語調の軍隊言葉で、如何にも日本・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・ タラソフ・ロディオーノフは、さっき文学衝撃隊組織について論じてたときよりはグッとくだけて、親しみ深い同輩の口調で云った。「われわれの日常の中からとられている、これは健康な徴候だ。――君のこの前の作品、あのホラ、染めた髪の女が出て来・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・ 大正の前半期に文学の同世代として衆目を引く出発をした芥川龍之介は、他の同輩菊池寛や久米正雄のようにそれぞれの才能の易きについて大衆文学へ移ることをしなかった。プロレタリア文学の擡頭に対しても「この頃やつと始まりしは、反つて遅すぎる位な・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 娘、タイピストか何か、始めて自分の小使を父のために使う その心持、 娘、あの職業婦人タイプ 武藤のこと 彼女の体 眼つき 押しのつよさ 独占慾 子供や同輩を皆手下あつかいにする。淋しさから来・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ 尊敬され、或は畏怖される文学上の同輩であったろうか。 私共はここにおいて実に興味ある一つの現実に遭遇する。それは、バルザックが一八三〇年代からフランス文学に咲き乱れていた絢爛たるロマンチシズム文学の只中にあって、全く一人の例外者、ユー・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫