・・・が、その後四五日すると、甚太夫は突然真夜中から、烈しい吐瀉を催し出した。喜三郎は心配の余り、すぐにも医者を迎えたかったが、病人は大事の洩れるのを惧れて、どうしてもそれを許さなかった。 甚太夫は枕に沈んだまま、買い薬を命に日を送った。しか・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・突然、くすりがきいてきて、女は、ひゅう、ひゅう、と草笛の音に似た声を発して、くるしい、くるしい、と水のようなものを吐いて、岩のうえを這いずりまわっていた様子で、私は、その吐瀉物をあとへ汚くのこして死ぬのは、なんとしても、心残りであったから、・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 彼は、吐瀉しながら、転げまわりながら、顔中を汚物で隈取りながら叫んだ。「俺は癒るんだ!」「生きてる間丈け、娑婆に置いて呉れ」 彼は手を合せて頼んだ。 ――俺が、いつ、お前等に蹴込まれるような、悪いことをしたんだ――と彼・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
出典:青空文庫