・・・ 彗星の表現はあまりにも真実性の乏しい子供だましのトリックのように思われたが、大吹雪や火山の噴煙やのいろいろな実写フィルムをさまざまに編集して、ともかくも世界滅亡のカタクリズムを表現しようと試みた努力の中にはさすがにこの作者の老巧さの片・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・その度ごとに采配が切断されてその白い紙片が吹雪のように散乱する。音頭取が一つ拍子を狂わせるとたちまち怪我人が出来るそうである。 映画の立廻りの代りにこの「花取り」を入れて一層象徴化されたる剣の舞を見せたらどうかと思うのである。その方がま・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・それがおおよそ百年に一遍くらいちょっとした吹雪があったとすると、それはその国には非常な天災であって、この災害はおそらく我邦の津浪に劣らぬものとなるであろう。何故かと云えば、風のない国の家屋は大抵少しの風にも吹き飛ばされるように出来ているであ・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・ 池の端を描いた清親の板画は雪に埋れた枯葦の間から湖心遥に一点の花かとも見える弁財天の赤い祠を望むところ、一人の芸者が箱屋を伴い吹雪に傘をつぼめながら柳のかげなる石橋を渡って行く景である。この板画の制作せられたのは明治十二三年のころであ・・・ 永井荷風 「上野」
・・・風は傘を奪おうとし、吹雪は顔と着物を濡らす。しかし若い男や女が、二重廻やコートや手袋襟巻に身を粧うことは、まだ許されていない時代である。貧家に育てられたらしい娘は、わたくしよりも悪い天気や時侯には馴れていて、手早く裾をまくり上げ足駄を片手に・・・ 永井荷風 「雪の日」
・・・ 昼過ぎから猛烈な吹雪が襲って来たので、捲上の人夫や、捨場の人夫や、バラス取り、砂揚げの連中は「五分」で上ってしまった。 坑夫だって人間である以上、早仕舞いにして上りたいのは、他の連中と些も違いはなかった。 だが、掘鑿は急がれて・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・灰は風の吹くたびに木からばさばさ落ちて、まるでけむりか吹雪のようでした。けれどもそれは野原へ近づくほど、だんだん浅く少なくなって、ついには木も緑に見え、みちの足跡も見えないくらいになりました。 とうとう森を出切ったとき、ブドリは思わず目・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・それは何かというと、工場のヒューッという気笛、吹雪が、どんどん降る。旗がはためいている。ヒューッと鳴る気笛。弔砲がドンドンと聞える。非常に効果的な音の使いかただった。 それの一部で五ヵ年計画についての演説、それはモスクワの大劇場で行った・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・木の元を 野飼ひの駒はしづ/\と行く浦若き黒の毛なみをうるほして 春の小雨は駒の背に降るあけの日も又あけの日も北風に 吹きこめられて都のみ恋ふ 吹雪の中を―― 東京では桜が満開・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・この先生は十二月の末頃までは、雨が降って、吹雪がしても通わなければならない。 先生にとって最も苦痛な冬は草の色にも木の梢にもこの頃は明かに迫って来た。厚い外套と深靴、衿巻、耳掩を、細君が縁側にならべぱなしで家を人っ子一人居ずにして、いや・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫