・・・ 帝室より私学校を保護し、学者を優待するは、学問の進歩を助くるのみならず、我が国政治上に関しても大なる便益を呈することならん。そもそも文字の意味を広くしていえば、政治もまた学問中の一課にして、政治家は必ず学者より出で、学校は政談家を生ず・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ままの方向に進みたらんには、国中ますます教師を生ずるのみにして、実業につく者なく、はじめにいえる如く、蚕を養うて蚕卵を生じ、その卵を孵化してまた卵を生じ、ついに養蚕の目的たる糸を見ざるに等しきの奇観を呈することあるべし。 我が慶応義塾の・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・政治の働は、ただその当時に在りて効を呈するものと知るべきのみ。 これに反して教育は人の心を養うものにして、心の運動変化は、はなはだ遅々たるを常とす。ことに智育有形の実学を離れて、道徳無形の精神にいたりては、ひとたびその体を成して終身変化・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・るにあらざれば同類一場の交際を開き、豪遊と名づけ愉快と称し、沈湎冒色勝手次第に飛揚して得々たるも、不幸にして君子の耳目に触るるときは、疵持つ身の忽ち萎縮して顔色を失い、人の後に瞠若として卑屈慚愧の状を呈すること、日光に当てられたる土鼠の如く・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・法律顧問を託する女が媚を呈するような態度で、顔がどうなったの、姿がどうなったのと云うはずが無い。 自動車がセエヌ河に沿うて走る間オオビュルナンはこんな事を考えた。「三十三年に六年を足せば三十九年になる。マドレエヌは年増としてはまだ若い方・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・本官に於て大いに同情を呈する。しかしながらすでに妄りに人の居ない座敷の中に出現して、箒の音を発した為に、その音に愕ろいて一寸のぞいて見た子供が気絶をしたとなれば、これは明らかな出現罪である。依って今日より七日間当ムムネ市の街路の掃除を命ずる・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
出典:青空文庫