・・・よそで殴られて、家へ帰って告げ口している弱虫の子供に似ているところがある。「あなたが甘やかしてばかりいるからよ。」家の者は、たのしそうな口調で言った。「あなたはいつでも皆さんを甘やかして、いけなくしてしまうのです。」「そうか。」意外・・・ 太宰治 「誰」
・・・「あさましい顔をするなよ。告げ口したら、ぶん殴る。」 悪びれた様子もなかった。節子は、兄を信じた。その訪問着は、とうとうかえって来なかった。その訪問着だけでなく、その後も着物が二枚三枚、箪笥から消えて行くのだ。節子は、女の子である。・・・ 太宰治 「花火」
・・・私の困るようなことを見つけるのがうまくて、ああ困ったと思うと私はすぐ、その弟の大の男並に脊丈と力のある体と、肉の厚い怒った顔つきを思い合わせ、告げ口されることを思って閉口するのであった。この弟の何か不調和であった不幸な肉体のなかでは、早すぎ・・・ 宮本百合子 「青春」
・・・小学一年生で、友達の告げ口をした時、つねられた。死の恐怖を知ったのはこの省吾伯父の没した時であった。 書簡註。この年、父が事務的な用向をもってニューヨークへ赴き、二十歳ばかりの私も伴われた。郵船の伏見丸。左側に献立を印・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・すると、猿は、虎、狼などが集まっている国際連盟にかけつけて、告げ口をしている。しかし、蟹は眼尻をつりあげて柿の木の下にがん張っています。その絵のところにはこう書いてある。「昔の猿蟹合戦では、子が仇をうった。けれども今は子や孫が仇うち・・・ 宮本百合子 「「モダン猿蟹合戦」」
出典:青空文庫