・・・いうふうな家では、小夜という娘もそこに働いているうちはお竹どんと呼ばれるが、宮中生活のよび名で宮中に召使われているものの名であった紫式部、清少納言、赤染衛門というのも、それぞれ使われているものとしての呼名である。紫式部が藤原の何々という個人・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 山の多い湖の水の澄んだ村に生える草には姿もその呼名もつり合って居る。 牛乳屋の小僧 この桑野村で始めて牧牛を始めた石井と云う牛乳屋の家に居る小僧なのだ。 七八つの子の体をして居るが年を聞けば十二だそうでいか・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・ だけれども、親愛なるジャガイモ、私の祖母たちはカンプラと東北の呼名で呼んだ馬鈴薯の種を、どこへまいたら、育って花を咲かせて、米の足しになるようなみのりかたをするだろうか。もしも、うちでやるとすれば、東側の竹垣の根へ少々その東からの光線・・・ 宮本百合子 「昔を今に」
河原蓬と云う歌めいた響や、邪宗の僧、摩利信乃法師等と云う、如何にも古めかしい呼名が、芥川氏一流の魅力を持って、私の想像を遠い幾百年かの昔に運び去ると同時に、私の心には、又何とも云えないほど、故国の薫りが高まって来た。 ・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・ 只その呼名をきいただけで顔が熱くなるほど真面目に私が愛する芸術をよごさずに置きたいと思う。 ことに文学の様なものはどれだけ人間の生活に大きな影響をおよぼすかははかり知る事が出来ず又それがあんまり見えすいたら私達はおびえなければなら・・・ 宮本百合子 「無題(二)」
出典:青空文庫