・・・ブドリは玄関に上がって呼び鈴を押しますと、すぐ人が出て来て、ブドリの出した名刺を受け取り、一目見ると、すぐブドリを突き当たりの大きな室へ案内しました。 そこにはいままでに見たこともないような大きなテーブルがあって、そのまん中に一人の少し・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・一杯十カペイキの茶でも呼鈴。―― 朝八時と十時の間。夜は九時から十一時前後、ホテルの黒猫は廊下のエナメル痰壺のわきに香箱をつくって種々雑多な色の靴とヤカンの行進を眺めていた。各々の足音が違うように大小恰好の違うヤカンを下げたホテルの住人・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・それを見ながら、なほ子は呼鈴も押さず、暗い板の間へ通って行った。茶の間の戸を開けようとしていると、「アラ」 千世子が、おかっぱと制服の裾を膨らませ、二階から駈け降りて来た。「お母様、工合がおわるいって?」「ええ。お姉様いつ帰・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
出典:青空文庫