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・・・書物も和書の本箱のほかに、洋書の書棚も並べてある。おまけに華奢な机の側には、三味線も時々は出してあるんだ。その上そこにいる若槻自身も、どこか当世の浮世絵じみた、通人らしいなりをしている。昨日も妙な着物を着ているから、それは何だねと訊いて見る・・・
芥川竜之介
「一夕話」
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・・・洋書というものは唐本や和書よりも装飾的な背皮に学問と芸術の派出やかさを偲ばせるのが常であるのに、この部屋は余の眼を射る何物をも蔵していなかった。ただ大きな机があった。色の褪めた椅子が四脚あった。マッチと埃及煙草と灰皿があった。余は埃及煙草を・・・
夏目漱石
「ケーベル先生」