・・・が、日本へ帰ったばかりのテオドラ嬢は日本の民間党の領袖に母国の大政治家ジスレリーを私淑する花形役者があるのを少しも知らなかったろうし、またこの和製ジスレリーが未来の良人となる事を少しも予期しなかったろう。噂だから虚実は解らぬが、当時のテオド・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ お姉さんは、これまで見た、紅茶の空きかんといえば、たいていリプトンであったのが、いつのまにか、みんな和製を使用するようになったとみえて、リプトンの空きかんは、一つもないと思われました。ここにも、世の中の変化があらわれているような気がし・・・ 小川未明 「小さな弟、良ちゃん」
・・・結局私はこの油の漏れる和製の文化的ランプをハンダ付けでもして修繕して、どうにか間に合わせて、それで我慢する外はなさそうである。 寺田寅彦 「石油ランプ」
・・・ 普通の和製のレコードとヴィクターのと見比べて著しく目につく事は盤の表面のきめの粗密である。その差はことに音波の刻まれた部分に著しい。適当な傾きに光を反射させて見た時に一方のはなんとなくがさがさした感じを与えるが、一方は油でも含んだよう・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・急性肺炎にきく薬はペニシリンしかないというとき、和製のペニシリンはよくきかないからと云って、それを使わずに良人を死なす妻が天下にあるだろうか。日本の解放運動が様々の歴史的負担のもとに未熟であったとして、日本の解放運動の形がそのほかになかった・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・その若衆のしらじらしい、どうしても本の読めそうにない態度が、書見と云う和製の漢語にひどく好く適合していたが、この滑稽を舞台の外で、今繰り返して見せられたように、僕は思ったのである。 そのうち僕はこう云う事に気が附いた。しらじらしいのは依・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫