・・・と奥で嗄た声がして、続て咳嗽がして、火鉢の縁をたたく煙管の音が重く響いた。「この乱暮さを御覧なさい、座る所もないのよ。」と主人の少女はみしみしと音のする、急な階段を先に立て陞って、「何卒ぞ此処へでも御座わんなさいな。」 と其処ら・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・「大丈夫にきまってるさ。咳嗽は少し出るがインフルエンザなんだもの」「インフルエンザ?」と津田君は突然余を驚かすほどな大きな声を出す。今度は本当に威嚇かされて、無言のまま津田君の顔を見詰める。「よく注意したまえ」と二句目は低い声で・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・ 梟の坊さんはしばらくゴホゴホ咳嗽をしていましたが、やっと心を取り直して、又講義をつづけました。「みなの衆、まず試しに、自分がみそさざいにでもなったと考えてご覧じ。な。天道さまが、東の空へ金色の矢を射なさるじゃ、林樹は青く枝は揺るる・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
出典:青空文庫