・・・も楽むことが出来るのである、最も生活と近接して居って最も家族的であって、然も清閑高雅、所有方面の精神的修養に資せられるべきは言うを待たない、西洋などから頻りと新らしき家庭遊技などを輸入するものは、国民品性の特色を備えた、在来の此茶の湯の遊技・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・た私の思想を雑誌の一論文に書いて遺したというのも結構、しかしそれよりもいっそう良いのは後世のために私は弱いものを助けてやった、後世のために私はこれだけの艱難に打ち勝ってみた、後世のために私はこれだけの品性を修練してみた、後世のために私はこれ・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・女が上京すればますます淪落の淵に沈んで行くに違いないと思ったのと、救いがたい悪癖を持っているのに同情したのとで、何とかしてこれを救おうという心情を起し、物質的並に精神的方面より援助を与え彼女を品性のある婦人たらしめようと力を尽したのでした」・・・ 織田作之助 「世相」
・・・おのれの心の変わりゆきし跡を見たもうてあきれたもうとも笑いたもうとも泣きたもうとも、そは貴嬢が自由なり、されどあきるるも笑うも泣くもみな貴嬢が品性によりてのことなれば、あながち貴嬢が自由ともいい難し。 さて時はついに来たりぬ、いざわが文・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・し梅子嬢の欠点を言えば剛という分子が少ない事であろう、しかし完全無欠の人間を求めるのは求める方が愚である、女子としては梅子嬢の如き寧ろ完全に近いと言って宜しい、或は剛の分子の少ないところが却て梅子嬢の品性に一段の奥ゆかしさを加えておるのかと・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・無造作で、精神的で、ささげる心の濃い娘を好むなら、そうした品性の青年なのだ。知性があって、質素で社会心のある娘を好むなら、そうした志向が青年にあるのだ。 娘に対して注文がないということは生への冷淡と、遅鈍のしるしでほめた話ではない。むし・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・この時期に達してからの夫以外の男性との恋愛は、女性にとっては、そのたましいの品性と平和とを傷つける地上の最も醜き、呪うべきものである。この意味でニイチェのいわゆる一回性の法則は、さまざまの現実的事情あるにもかかわらず、永遠に恋愛と結婚との最・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ 何となれば、死生の際が人を詩化せしむる如く、戦争は、国民を詩化せしむるものにして、死生の際が人情の極致を発露する如く、戦争は実に、国民品性の極致を発露すべきものなれば也。死生の際が人情の極致を発露する時なりとして詩歌に、小説に、美文に・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・私のような者には、とても理解できぬくらいに貴い品性を有っていた人ではなかったろうかと思った。人間の最高の栄冠は、美しい臨終以外のものではないと思った。小説の上手下手など、まるで問題にも何もなるものではないと思った。 もうひとり、やはり私・・・ 太宰治 「散華」
・・・殊に世人から売笑婦として卑しめられている斯くの如き職業の女に対しては、たとえ品性上の欠点が目に見えても、それには必由来があるだろうと、僕等は同情を以て之を見ようと力めている。同情は芸術制作の基礎たるのみではない。人生社会の真相を透視する道も・・・ 永井荷風 「申訳」
出典:青空文庫