・・・この国の文学美術がいかに盛大で、その盛大な文学美術がいかに国民の品性に感化を及ぼしつつあるか、この国の物質的開化がどのくらい進歩してその進歩の裏面にはいかなる潮流が横わりつつあるか、英国には武士という語はないが紳士と〔いう〕言があって、その・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ 他所の児の様に、ヒクヒク周囲の者に、肝癪を起させる程泣きもしず、意地汚く乳もねだらず、その健康から云っても、おぼろげながら見える品性から云っても、私は、実に理想的な児だと信じて居る。 こんな妹を私に下すった両親にも感謝する。 ・・・ 宮本百合子 「暁光」
・・・においても、漱石は女が結婚すると人間として悪くなる、少くとも素直でなくなり、品性がよくなくなるという彼の支配的な女性観、すでに「虞美人草」に現れている考えを反覆している。延子とその従妹との対照、お延が伯父から小切手を貰うところの情景などで、・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
出典:青空文庫