・・・彼女の心はそんな事には止ってはいなかった。唯心を籠めて浄い心身を基督に献じる機ばかりを窺っていたのだ。その中に十六歳の秋が来て、フランシスの前に懺悔をしてから、彼女の心は全く肉の世界から逃れ出る事が出来た。それからの一年半の長い長い天との婚・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・ こういう唯心論者もまだ少しはいるのである。 六 ある大学講堂の前へ突き当たって右の坂道へおりようとする曲がり角に、パレットナイフのような形の芝生がある。きちょうめんにちゃんと曲がり角を曲がってあるくのと、そ・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・けれども、水野仙子氏の遺著の序文に書かれている文章を見ても、作者が婦人の生活力の高揚ということについては、唯心的に内面的にのみ重点を置いて見ていたことが感じられる。私には、作者有島武郎が自身の内にあった時代的な矛盾によって、一見非凡であって・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・あすこには、雪のきらめく山嶺とそこに孤独であってはじめて確保された唯心的で超歴史的な恍惚があります。「運河」「畳」「家」これらは、これらとして独自の断面から、日本の人民の生きかたについてを思わせます。「鉛筆詩抄」にあるどの詩も、その詩として・・・ 宮本百合子 「鉛筆の詩人へ」
・・・ ヨーロッパ大戦後の文学を支配していた心理分析、潜在意識の生活を追究する唯心的な文学は、一九二九年のヨーロッパの大恐慌とその社会事情の変化によって別な人間生活の総体において表現しようと欲する文学運動に道を拓いた。一九三〇年頃からアメリカ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・それは、われわれ人間が世界を見る場合、唯心論的に見るべきか、唯物論的に見るべきかと云う二つの見方にちがいない。此処でわれわれの完全に共通した問題は分裂する。 われわれは前に、その正邪に拘らず、資本主義を認め、社会主義を認めた。この相・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
出典:青空文庫