・・・家族主義の上に立つものとせば、一家の主人たる責任のいかに重大なるかは問うを待たず。この一家の主人にして妄に発狂する権利ありや否や? 吾人はかかる疑問の前に断乎として否と答うるものなり。試みに天下の夫にして発狂する権利を得たりとせよ。彼等はこ・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・ 近頃心して人に問う、甲冑堂の花あやめ、あわれに、今も咲けるとぞ。 唐土の昔、咸寧の吏、韓伯が子某と、王蘊が子某と、劉耽が子某と、いずれ華冑の公子等、相携えて行きて、土地の神、蒋山の廟に遊ぶ。廟中数婦人の像あり、白皙にして甚だ端正。・・・ 泉鏡花 「一景話題」
・・・汝は安心してその決行ができるかと問うて見る。自分の心は即時に安心ができぬと答えた。いよいよ余儀ない場合に迫って、そうするより外に道が無かったならばどうするかと念を押して見た。自分の前途の惨憺たる有様を想見するより外に何らの答を為し得ない。・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・「そうですとも、私の方の問題は役者になればいいので、吉弥さんがその青木という人と以後も関係があろうと、なかろうと、それは問うところはないのです」と、僕の言葉は、まだ金の問題には接近していなかっただけに、うわべだけは、とにかく、綺麗なもの・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・多分そのせいで、女学生の方が何か言ったり、問うて見たりしたいのを堪えているかと思われる。 遠くに見えていた白樺の白けた森が、次第にゆるゆると近づいて来る。手入をせられた事のない、銀鼠色の小さい木の幹が、勝手に曲りくねって、髪の乱れた頭の・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・と、その青年は、問うたのであります。いつか、約束にもらった指輪は、いまはかえって、邪魔となったのでした。彼女は、顔を赤くして、指輪をぬくと、海の中へ投げてしまいました。「これで、いいのですか。」 かれらは朗らかに笑いました。内気の娘・・・ 小川未明 「海のまぼろし」
・・・の真価を世に問う、いわば坂田の生涯を賭けた一生一代の対局であった。昭和の大棋戦だと、主催者の読売新聞も宣伝した。ところが、坂田はこの対局で「阿呆な将棋をさして」負けたのである。角という大駒一枚落しても、大丈夫勝つ自信を持っていた坂田が、平手・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・技術の巧拙は問う処でない、掲げて以て衆人の展覧に供すべき製作としては、いかに我慢強い自分も自分の方が佳いとは言えなかった。さなきだに志村崇拝の連中は、これを見て歓呼している。「馬も佳いがコロンブスは如何だ!」などいう声があっちでもこっちでも・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・いかに問うかということ、その問い方の大いさ、深さ、強さ、細かさがやがてその解答のそれらを決定する条件である。故に倫理学の書をまだ一ページもひるがえさぬ先きに、倫理的な問いが研究者の胸裡にわだかまっていなければならぬ。そして実はその倫理的な問・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・「なんぼ広い東京じゃとて問うて行きゃ、どこいじゃって行けんことはないわいや。」 そして、ある朝早く、両人は出かけた。「お前等両人でどこへ行けるもんか。」出かけしなに清三は不安らしく止めた。「いゝや、大事ない、うら等二人で行く・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
出典:青空文庫