・・・これは、上野宿坊の院代へ問い合せた上、早速愛染院に書き直させた。第三に、八月上旬、屋敷の広間あたりから、夜な夜な大きな怪火が出て、芝の方へ飛んで行ったと云う。 そのほか、八月十四日の昼には、天文に通じている家来の才木茂右衛門と云う男が目・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・文言は例のお話の縁談について、明日ちょっとお伺いしたいが、お差支えはないかとの問合せで、配達が遅れたものと見え、日附は昨日の出である。 端書を膝の上に置いて、お光はまたそれにいつまでも見入った。「全くもうむずかしいんだとしたら……」・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・熊吉は帰朝早々のいそがしさの中で、姉のために適当な医院を問合せていると言ったが、自分はそんな病人ではないとおげんは思った。彼女は年と共に口ざみしかったので、熊吉からねだった小遣で菓子を仕入れて、その袋を携えながら小さな甥達の側へ引返して行っ・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・「お問い合せの玉稿、五、六日まえ、すでに拝受いたしました。きょうまで、お礼逡巡、欠礼の段、おいかりなさいませぬようお願い申します。玉稿をめぐり、小さい騒ぎが、ございました。太宰先生、私は貴方をあくまでも支持いたします。私とて、同じ季節の・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・他日、このどろぼうが、何か罪悪を重ねて、そのとき捕えられ、私の家を襲撃したことをも白状して、警察は、その白状にもとづいて、はじめて私に問い合せに来ても、そのときは、私は頭を掻き掻き、さあ、何せまっくらで、それに夢見ごこちで、記憶が全く朦朧と・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・と教えたことを数年前にかいた随筆中に引用しておいたら、近ごろその出典について日本橋区のある女学校の先生から問い合わせの手紙が来た。しかしこの話は子供のころから父にたびたび聞かされただけで典拠については何も知らない。ただこういう話が土佐の民間・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・で開封すると、「御問合せの件に付申上候。この家はレデーの所有にて室内の装飾の立派なるはもちろん室々はことごとく電気灯を用いよき召使を雇い高尚優雅なる生活に適するように意を用い候。宿料は一週三十三円に御座候。あるいは御気に召さぬかと存じ候えど・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・そして、米国では日本なぞよりも執筆者が数からいっても割合からいっても遙に多いが、その執筆者も或る雑誌が買ってくれているから書いているので、その雑誌が買わなくなれば今度は他の雑誌へ問い合わせて買う約束が纏まればやはり書きもするが、どこでも買わ・・・ 宮本百合子 「アメリカ文士気質」
・・・ ロンドンのローヤル・ソサエティー・オヴ・ブリティッシュ・アカデミーから、父の閲歴について問い合わせが来て、それに答える下書を国男が書き二階の私のところへ持って来た。父の生れた年は明治元年でペシコフと同年でした。只一八六八でいいか、A・・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・そこで浅草の文淵堂主人に問い合せた。文淵堂の答書はこうである。「香以の友であった永機はまた九代目市川団十郎、五代目尾上菊五郎とも交が深かった。団十郎の筆蹟は永機そっくりであった。この永機は明治初年の頃に向島の三囲社内の其角堂に住み、後芝円山・・・ 森鴎外 「細木香以」
出典:青空文庫